「美味しい発酵食品を販売している本屋さんがある」というおもしろい情報を頼りに、木之本の『いわね書店』を訪ねました。
早速ですがお店に入る間もなく、大きな看板が目に飛び込んできました。
ほんとにありました、本屋さんに発酵食品。
ほんまや〜、と軽く感激します。
取材に伺ったのは15時を少し回り、少々お腹がすいてきた時間帯。
パックに入れられた噂の発酵食品は、食欲が刺激される鮮やかな彩りです。
「どうぞ、よかったら。」
取材に応じてくださったのは岩根ふみ子さん。急な訪問者を温かい笑顔で迎えてくれました。
ふみ子さんは、この漬け物をおばあさんに習ったそうで、おばあさんはといえば敦賀から来る行商人から習ったと言います。
70年くらい前のこと、北海道でとれた沢山のニシンが船に乗って敦賀にやってきたそうです。それを背負って木之本までやってきたのが敦賀の行商人。とはいえ海のない木之本の人たちにしてみれば、見慣れないニシンの食べ方が分からない。そこで行商人はこの地の人たちに美味しい食べ方を伝えながら売り歩いたそうです。当時この辺りの多くの家で漬けられるようになったメニューだそうで、今でも「冬になると食べたくなるなつかしい味」というお年寄りの固定客が少なくないと言います。
だいこんや麹は地元で簡単に手に入ったので、あとは敦賀から来るニシンさえ買えばこの新しくて美味しい、栄養豊富な一品ができてしまう。マーケティングのお手本のようなお話、思わず聞き入ってしまいます。
教えていただいた作り方はシンプルながらも、麹による発酵が肝心ゆえに、材料の下ごしらえから漬け込みが程よくなるまでには一月近くの時間が掛けられているそうです。
ちなみにふみ子さんが使われている麹は、近くのとある集落にある麹屋さんが昔ながらの方法で丁寧に作られたもの。急遽お願いしてこちらにもお伺いし、見学させていただきました。
タイル張りの流しや大きな釜の据えられた土間、七輪で練炭を焚きながら温かく保たれた室など、初めて目にする麹屋のお仕事場。
日ごろ味噌や漬け物を美味しくいただきながら、元を辿っては興味津々でいながら、なかなか見る機会の無かった麹屋さん。空間全体に麹の香りが漂い、まさに麹菌とともに暮らしているといった雰囲気のお宅を拝見し、より一層発酵食品への興味が深まりました。
話は戻って、それにしてもなぜ本屋さんに発酵食品があるのか。ふみ子さんに聞けば経緯は明快なのですが、そこに関連する話題は地域の活動や暮らしと文化、さらには浄土真宗との関わりなどなどおもしろいように広がっていきます。楽しくお話しをさせていただく中には自分の仕事や暮らしの参考にもしたい考え方や姿勢がいくつもありました。
郷土の食の魅力は、単にそれを食べて美味しいかどうかもさることながら、作る人や地域やその背景にいろんな奥行きが広がっていることのように思います。
さて、いよいよの食レポです。
しゃきしゃきとした大根の歯ごたえがよく、また噛むほどににしんの旨味が染み出してきます。
ご飯との相性も抜群ですが、日本酒のお供にもうってつけです。
ほんのり甘い麹の風味や食感も良く、どんどん箸がすすみます。
ちなみに右に写っているえび豆もいわね書店製のものでこちらもとても美味。
どちらも一品々々が目立って主張するのではなく、食べ合わせる他の料理も美味しくなるような味わいです。
この冬のうちにもう一度リピート間違いなしの美味しさ。発酵食というと家で作るにはなかなかハードルが高い印象がありましたが、これはぜひじっくりと挑戦してみたいと思いました。おすすめです。