• 2019.3.5
  • 自然と暮らし

森のメープルで強まる人と森の結びつき


メープルシロップというと何をイメージするだろう? 寒い地域で作られるもの、しかもカナダなどの外国産……。そんな印象が強かったが実は長浜でも作れるというのだ。
ぜひ作ってみたい!と意気込み、原料の樹液を採集するイベントに申し込んだ。
今回はそんな長浜産メープルシロップの採取体験レポートを送ろうと思う。

主催は、ながはま森林マッチングセンター。森林をはじめ、山で暮らすための情報を発信しながら、山とひとをつなぎ、定住や仕事づくりを支援する機関だ。

市販の輸入メープルシロップは、カエデの中でもサトウカエデという種類から作られているようだが、日本には自生しない。ただ、長浜には同じ甘い樹液が採れるイタヤカエデとウリハダカエデが自生している。イタヤカエデは、余呉の伝統工芸品「小原かご」の原料でもあり、暮らしに結びついていると親近感を覚えた。

山を歩く準備をして早速採集現場に向う。案内人は、ながはま森林マッチングセンターの森の案内人「橋本 勘」さん。

マイナスイオンたっぷりの清流も流れる。

今回の現場は市内北部、西浅井町にある「奥びわ湖・山門水源の森」。滋賀県内最大の湿原があり、また炭や薪が燃料だったころはそれらを作るための里山でもあった。寒い地域と暖かい地域のちょうど間にあることから、特徴のある生態系が広がっている。

その特徴の1つとして、里山を登って行くと赤く綺麗な「ツバキ」を見ることができる。ここのツバキは、日本海側の寒い地域を好むユキツバキと太平洋側の暖かい気候を好むヤブツバキが出会う場所で、ここで結び合い(交雑)誕生した「ユキバタツバキ」が自生している。

もう一つは、山道を挟み両谷には、落葉の木と常緑の木がはっきり分かれて自生している。日本海側から冷たい風が吹く谷には、寒い気候を好む落葉樹のブナがあり、太平洋側からびわ湖を通り暖かい風が吹く谷には、暖かい気候を好む常緑樹のアカガシがある。

「これぞ日本の真ん中だ」と冗談まじりに話す橋本さんだが、まさにその通りなのを植生で実感する。

山道を挟んで左側にはブナが、右側にはアカガシが多い

山を歩いて1時間程たったところに、カエデの木3か所にタンクが設置してあった。成長を考慮し20年以上の木を、設置用として選んでいる。

幹にはチューブが刺さってあってポリタンクにつながっている。幹表面から2~3cmほどドリルで穴をあけてチューブを刺すそうだ。装置はすべてホームセンターに販売してあるもので手作りだという。

ウリハダカエデの葉

さて肝心の樹液はたまっているのか…。樹液が出やすいのは、気温が0度前後で変動するときだそうで、今年は暖冬のために出にくいようだ。この日の午前中の気温も9度。かなり暖かい。「全然ないかも…」と恐る恐るタンクを覗くと、少しではあるが透明な液体がたまっていた。

水蒸気が水になってたまっているかと思ったが、実はこれがメープルシロップの元となる樹液「メープルウォーター」なのだ。タンクから持ち帰り用のペットボトルに移し替えるときも水を入れているかのような感じで、粘り気もない無色透明な液体だった。

市販品で見るメープルシロップの茶色くて粘り気のある状態は、メープルウォーターを煮詰め濃縮して初めてそうなるのである。樹液の糖度はわずか1.5%だが、煮詰めることで66%まで濃縮する。量でいえば40~45分の1まで減ってしまう。

下山後は、お楽しみのメープルシロップの試食。当日は煮詰めるところまではできないので、あらかじめ煮詰めておいたサンプルをいただいた。

まずは、樹液の味比べ。イタヤカエデとウリハダカエデ、同じカエデでも種類が違うと味も違う。イタヤカエデは木そのもののナチュラルな味がするが、ウリハダカエデはステビアのようにさわやかな味。ただ煮詰めると味の違いはそれほど出なくなるそうだ。

地元のカエデの木で作られた試食用カップ。ナンバリング付き。

続いて、煮詰めたメープルシロップを試食。後味が残らないあっさりした甘さ!とてもおいしい。
暖冬の影響で、この冬は25ml入り瓶で30個しか作れなかったそうだ。本当に貴重なものをいただけて感謝。

たとえば山菜を採りに行くように自分でメープルシロップの原液を採りに行ける機会があるなんておもしろい。主催する橋本さんの思いはその先にある。メープルシロップという媒介を通じて、もっと森への関心を高めてほしいと考えている。

「かつては人と森が共生していましたが、現在その関係性が薄れてしまったことで森が荒れ、獣害も増えた。メープルシロップをきっかけとして、人と森の結びつきを強めていきたいと考えています」
山門水源の森の保全活動に事務局長としても関わる橋本さん。今、さまざまな形で人と森との関係づくりを進めていっている。

今回の企画でも、単に単発のイベントを開催するというだけではなく、日常的に森に入って樹液採取などのお手伝いをする「メープルサポーター制度」を立ち上げ、募集を行っている。(現在地元の人を中心に20人ほどが登録)

イベントに参加したメンバー

森の案内人 ながはま森林マッチングセンターの橋本勘さん

今年採れたメープルシロップは、東京日本橋にある滋賀県の情報発信拠点「ここ滋賀」で限定販売される予定。これをきっかけに、都会の人も長浜の森とつながりができればと願う。

販売する商品
写真提供:ながはま森林マッチングセンター

 

【ながはま森のメープルについての問合せ】

ながはま森林マッチングセンター
〒529-0425滋賀県長浜市木之本町木之本1757-2
TEL 0749-82-5070 (土日祝休)
URL  nagahama-forest.com/

 

 

川瀬智久
この記事を書いた人
川瀬智久
身長188cm、市役所入庁以来、背の高さだけはNo.1をキープしています(笑) 「人がまちを動かす」を理念に、広報を通じて、人がつながり、共感を与え、市民活動を喚起、活発化させられるようがんばります!今回の取組みで、観光のような「ハレ着」とは違った「普段着」の長浜の魅力、愉しみ方を紹介し、「長浜いいね!遊んでみたいね!住んでみたいね!」と、行動に移してもらえるようデザインしていきたいですね。