• 2020.8.13
  • 自然と暮らし
  • 食と暮らし

「琵琶湖の食文化守りたい」 鮎養殖の「鳥塚」


長浜には、琵琶湖のアユをもっと多くの人に食べてもらおうと生涯をかけた人がいました。故・鳥塚五十三さん。
琵琶湖へ注ぎ込む姉川のアユ漁師として代々続く家に生まれ、鮎養殖業「鳥塚」を創業、種苗アユの育成や子持ちアユの人工育成、琵琶湖産鮎の地域ブランド化などに取り組んできました。

五十三さんの次女、貴絵さんはこんな思い出を話します。

「当時小学生だった姉が、学校給食で出たアユがおいしくなかったと父に話したところ、学校に電話をかけたんです。『子どもたちにおいしいアユを食べてもらわなければ、大人になっても食べてもらえない。ふるさとの食文化が失われてしまう』と」。

アユといえば、塩焼きにすればさわやかな味わいの川魚というイメージで知られるでしょう。スーパーなどで売っているのを見れば20cmほどの大きさです。
一方で、琵琶湖で一生を過ごすアユは「コアユ」と呼ばれ、成魚になっても体長10cmほど。「コアユの炊いたん」と言われる甘露煮(飴炊き)は、滋賀を代表とする郷土料理でもあります。

そんな琵琶湖のアユは、川に放流すると15〜30cmの立派なサイズになるのです。先に登場した種苗アユというのは、稚魚の段階で全国の河川に放流するアユのことで、「鳥塚」では、全国シェアの10%を占めています。(※)

種苗アユの育成を始めたのは、1971年頃から。当時主流だった漁師が捕獲した氷魚(アユの稚魚)を購入する育成方法をさらに進化させて、県内で唯一、人工孵化させた稚魚から育てるアユを扱い、安定供給を可能に。顧客に安心して購入してもらうため、伝染病である冷水病を抑える加温処理設備も整っています。
また、資源保護のために禁漁とされている産卵期の「子持ちコアユ」を人工的に育成する技術を開発。首都圏の料亭などに重宝され、販路を広げてきました。

さらに県淡水養殖漁業協同組合長としても東奔西走。コアユの知名度を上げ、地域ブランド化することを狙い、2007年に「琵琶湖産鮎」の地域団体商標登録。琵琶湖の環境保全にも人一倍熱心で、何度も国会議員を訪ねて東京へ出かけ、「琵琶湖の保全及び再生に関する法律」の立法を陳情していました。(2015年成立、施行)

五十三さんは、子持ちアユ開発当時の取材にはこんな風に答えています。
「これを機に琵琶湖に関心が集まればいい。人間に有用な魚種だけが貴重なのではなく、150種とされる在来種全ての多様性が守られてこそ琵琶湖の健全性が維持できる。もっと湖の恵みに目を向けてほしい」

「父はとにかく琵琶湖の魚が好きだった」。貴絵さんのそんな一言に五十三さんの人生が凝縮されています。

現在、同社は貴絵さんの弟の康弘さんが後を継ぎ、父の掲げた「挑戦と努力の地道な積み重ね」を続けています。

2016年には、長浜市内の飲食店プロデュースを行う「nadeshico」、無農薬・低農薬の米作りに取り組む「吉田農園」とともに、東京・渋谷にフレンチレストラン「ターブル・オー・トロワ」をオープン。

「滋賀の食材とフレンチの融合」というコンセプトで鳥塚の鮎のほか、近江牛や近江野菜、地酒など滋賀の食文化を新しいスタイルで提供。県産品の魅力を丁寧に伝え、人気を博しています。

ソプラノ歌手として活躍している貴絵さんも、7年前から家業を手伝うように。昔は当たり前に食べていた祖父母の作る野菜、季節ごとに変わる魚、食卓に並ぶ漬物、うっとおしいと思えた人のつながりが、実は大変有り難く、恵まれていたことに気がつき、改めて「いいところで育った」と思うようになったと言います。

琵琶湖の環境悪化、漁師の減少、そしてコロナ禍…。決して、水産業は楽な仕事ではありませんが、奔走する父の背中を見てきた貴絵さんは「琵琶湖の食文化を愛した父の心意気をできる範囲で引き継いでいきたい」と話しています。

(※)
鮎釣りには「友釣り」という方法があり、ナワバリを持つアユの習性を利用した釣法。ハリを付けたオトリを野アユのナワバリに侵入させることで、オトリを追い払おうとした野アユが掛かるという仕組み。
この友釣りを楽しむ人らに指示されているのが、琵琶湖生まれの種苗アユ。海へ回遊する他地域のアユや人工ふ化させたアユに比べて縄張り意識が強いので、釣果が期待できる。
県淡水養殖漁業協同組合によると、1979年には琵琶湖産アユが国内種苗アユ全体の75%を占めていましたが、「冷水病」が発生しシェアが低下。今では約20%程度に。そのうちの半分が鳥塚製ということになる。

 

2020年8月29日(土)には、「食卓から守る湖北の風景」と題し、お弁当の販売とトークイベントを開催します。

販売するお弁当は、鳥塚の「大鮎」、菅浦の漁師・長澤康博さん(http://naga-labo.org/daily/koayuokisukui/)が沖すくい網漁で獲った「小鮎」、高島市海津の漁師・中村清作さんが船上で神経締めを施した鮮度管理抜群の「ビワマス」など、琵琶湖の幸を贅沢に盛り合わせます。

トークイベントでは、琵琶湖博物館の学芸員金尾滋史さんと会場をオンラインでつなぎ、「琵琶湖の食文化」を大切に残すことが、私たちの暮らしにどう関わりがあるのかを尋ねてみたいと思います。お弁当から湖北の風景に思いを馳せてみませんか?

【執筆:堀江昌史(能美舎) 写真:株式会社鳥塚】

「食卓から守る湖北の風景」

○開催日 2020年8月29日(土)
○会 場 えきまちテラス長浜 1階 ENGAWAスペース
○主 催 長浜生活文化研究所・TSUNAGU~つなぐ~
協 力 湖北地域農村女性活動グループ協議会
○内 容
トークイベント「(仮)暮らしと湖魚」
・時間 11:15-12:00
・講 師 琵琶湖博物館 学芸員 金尾滋史
聞き手 能美舎 堀江昌史
・定員 10人程度
・料金 1,000円(湖北のお弁当付き)
・お弁当は持ち帰ってご賞味ください。
・トークイベントはYouTubeでもライブ配信しますので、ご自宅等でご覧いただいてからお弁当を取りにきていただくことも可能です。YouTubeアドレスはお申込みいただいた方に後日メールでお送りします。

■湖北のお弁当について
・メニュー(予定)
アメノイオご飯、鮎の甘露煮といったびわ湖の恵みや夏野菜のだし漬け、ぜいたく煮など、湖北の風景を大切にされている生産者の皆さんによる旬の食材を使ったお弁当になります。
・お弁当のみの購入も可能 限定35食
・販売時間 12:00-13:30
・料金 1,000円(要予約)

〇その他
・当日はマスク着用でお願いします。
・トークイベントご参加の方は当日非接触型体温計で検温をさせていただきます。
・コロナウイルス感染拡大の状況により中止となる場合があります。
・この機会に新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の登録をおすすめします。
詳しくは、厚生労働省のチラシをご覧ください。

〇申込み 以下の申込みフォームからお申込みください。
https://forms.gle/xgf3KYzdr7ue7Mrv9

この記事を書いた人
一般ライター