• 2016.2.9 長浜の人
  • 食と暮らし

郷土料理研究家 肥田文子さんに聞く麹のこと


「鮒ずしにも鯖寿司にも。いつも暮らしのそばに」

味噌、醤油、みりん、酢、そして日本酒に焼酎。これらに共通するのは麹を使った発酵食品であること。最近では塩麹がブームになったこともあり、その存在が改めて注目されています。

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そもそも麹ってなんなんだろう? ということで調べてみると
1.蒸した米や麦、大豆などに麹菌といわれる微生物を付着・繁殖させたもの
2.麹を使っての発酵食品づくりは東アジア地域独特の食文化
3.麹には、酵素・クエン酸・抗生物質・ビタミン類などの栄養成分が含まれている。
4.酵素の働きでデンプンの糖化などが起こり、甘味やうまみを引き出す。

 

麹菌は日本の国菌として位置づけられているだけあって、地方の個性があらわれた活用がされています。では、長浜ではどうなのだろう。暮らしのなかで麹はどのような存在だったのだろう…。

湖北の伝統食の研究継承に日々努める肥田文子さんにお話をうかがいました。

 

 

「覚えているのはね、この家に嫁いできたときにおばあさんが毎日こたつの中で麹を作っていたこと。湯たんぽで米糠を温めてその中に入れて作っていた場合もありました。麹は、常に生活のそばにあったんです」

麹菌は買ってきて、米にふりかけ温度を保って繁殖させる。いつでも使いたいときに使えるような存在だったと肥田さんは振り返ります。
そもそも麹が身近にあったのは、「味噌は家庭で作るもの」によるところが大きかったようです。
かつては一般家庭でも味噌を仕込むのは1斗(約15㎏)レベルの大量の仕込みになるため「麹も家庭で作るもの」という感覚だったそうです。

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そんな時代を経て、今は肥田家では市内の麹屋さんで麹を買い求め、さまざまな加工をされています。

定番の味噌はさておき、肥田家の麹活用の一例としてご用意してくださったのが鮒ずし、うぐいの熟れ鮨、鯖寿司、にしんの麹漬け。
湖北の発酵食品の王様格のラインナップです。

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これまでに研究所でも鮒ずしや鯖寿司については紹介していますが、麹を使って浸け込んでいるタイプは珍しいです。
「ふつう鮒やうぐい、鯖を漬けるときは、お米をはさみこんでいきますよね。そのときにほんのわずかに麹を混ぜ込むんです。
鮒ずしなら、10キロの鮒に4升の米を使うとして麹は40g程度。麹が多すぎるとごはんが糖化しすぎてどろどろになってしまうんです。
あと、必ず冷めたご飯に麹を混ぜ込むというのがポイントです。
麹を使うと言うとびっくりされる方も少なくないんですが、甘味とうまみが加わりとても食べやすくなるように思います。試行錯誤を重ねて至った加工法です」

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鯖寿司の場合は、ご飯を酢飯にするそう。うまみだけではなく貯蔵性を高めるのに一役買ってくれるというのです。

 

「鮒ずしや鯖寿司というと、この地域ではお正月にふるまわれるようにハレの日の食べ物のイメージがありますが、我が家では、胃が悪いな、風邪ひいたかな、と思うと桶につけている鮒ずしをあげてきて、一日に数切れづつ食べるんです。甘酒も冬のイメージですが、年間を通じて飲んでいます。発酵の力で健康を保っているようなものです」とご主人の嘉昭さんは話します。

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もともと、肥田さんは農村女性活動グループ員で、農産物の生産や加工などについて技術や知識を持った人を認定する滋賀県の制度「農の匠」にも選定された方。当時の町役場の出先機関「農村婦人の家」に勤務し、農村女性の食生活改善や交流に尽力されてきました。婦人の家は、地域の人の味噌づくりの拠点でもあり、かつてシーズンには300人ほどが集っていたのが、今では60人ほどになってしまったそうです。
味噌を自分で作る人が減ってしまったのは、例えば道の駅で手作りの味噌が買えたり、米や大豆を用意すれば委託製造してくれるなど、自ら作らなくても手軽に手に入れられるようになったこと。
そして「麹菌を培養させるのにさっとつかえたこたつはエアコンに、米蔵のあるような家屋はすっかりなくなってしまったなど住環境の変化が、家庭での味噌作りの激減につながってしまい、麹は暮らしから遠くなってしまったように思います」

 

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今、発酵やローカルフードというフレーズ飛び交い、郷土食材や伝統食が見直されつつあるなか、肥田さんのもとには、郷土食を伝達してほしいと依頼が来ます。2015年の年末に行った鯖寿司漬け講習は若い世代にも人気だったそうです。
肥田さんはそうした傾向をとても喜ぶ一方、「まだまだ麹から離れいる」と長浜ならではの伝統的な食文化の継承に不安を抱いています。

 

「今一度、家族で一緒にご飯を食べることや、伝統的に続いてきた行事を見直してほしい。まずはお味噌汁と漬物とご飯でいいのです。そこから始めてください。少しづつ元来の食生活を取り戻していってほしいと強く思っています」

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矢島絢子
この記事を書いた人
矢島絢子
学生時代+数年を県外で過ごしUターン。冬の寒さをどうやって乗り切るかが毎年の課題。自転車に乗って肌寒さを感じなくなったときが湖北の本当の春到来だと信じています。そんな自転車の速度で感じるような、長浜の空気を伝えて行きます。