• 2015.5.1
  • 食と暮らし
  • ジビエと暮らし

余呉のいのちと共に   


白川ファーム/白川ファーム山肉亭 白川芳雄さん

初めて熊の肉を食べたときのことを今でも覚えている。脂が甘い!とただただ驚いた。ずいぶん後になって、その熊は余呉に住む白川芳雄さんが狩猟し、解体したものだと知った。

白川さんの暮らしは、春から秋を農業、冬は狩猟というサイクルで成り立っている。
農の方はもともと親から引き継いだ兼業農家だったが、会社を早期退職し専業へ。白川ファームという屋号で主に米をつくっている。

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猟の方はといえば、20歳から猟銃所持許可と狩猟免許をもっていて、毎年11月の狩猟解禁日になるやいなや山に入る。
「子どもの頃から野山は遊び場やった。近所の猟師のおじさんが山に入るのについていくこともあって、猟は身近な存在。自分で狩猟するに至るのはごくごく自然なことやった」

テリトリーは余呉町内の山々。狩猟仲間と一緒のときもあれば、猟犬を連れて一人で、のときもある。
「20代の頃は、熊をメインに狩猟してたなあ。30過ぎて山に猪が増えてきたように思う。猟犬を使って1日で13匹捕ったときもあったで」

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「猟師はな、ふつう解体の仕方とかを人に教えないし、教えてもらわないもんなんや。だからみんな独自のやり方でさばいている。けれど間違った解体の知識をもってしまうとせっかくの肉が処理の過程でおいしくなくなってしまうことだってある。それではあかんとずっと独自に勉強してきた」
だからこそ、白川さんの捕らえた獲物の肉はおいしいと口コミで知られていくようになった。

ちなみに、猟師が狩猟した獲物についてはいくつかの決まりがある。自ら解体した獲物は、自分で食べる、もしくは無償で人に提供する。販売はしてはならない。販売するには公的機関が許可した食肉解体施設をもたねばならないが、猟をする人で許可施設をもつ人はほとんどいない。

白川さんは、2010年に長浜市で最初の許可施設として「白川ファーム山肉亭」を作ってしまった人でもある。広く食べてほしいからと凝り性の性格が発揮された。

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例えば、一般的に私たちが抱くイメージとして、狩猟した獲物の内臓や血を抜くのは早ければ早いほど良い=山中でさばくというのがある。
内臓を抜くのは大腸菌が獲物の体内に充満してしまうのを防ぎ、体温を下げるためだ。逆に言えば、それらを見極めれば山から獲物を下ろした後で解体しても肉の品質が左右されることはない。
また血は獲物の適切な場所を狙って撃ちとめる技術があれば、自然に出て行く。
白川さんはたいていの獲物を、山肉亭まで持ち帰ったのちに解体処理する。知識と技術、食肉販売をする者としてのプロ意識に裏打ちされた工程だ。

「自分がしとめてきたいのちを、自分の大事な人に食べてもらいたい。そしたら正しい知識ときちんとした施設で解体処理して、いちばんおいしい状態にしたいと思うのは当然のこと」

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近年、熊も猪も鹿もどんどんと里におりてくるようになってきた。獣害による農作物の被害もよく聞く。
「うちの田畑もやられてまうよ。ネットやらはってもあかん、いたちごっこみたいなもんやし、もう夏場は仕方ないとあきらめてるよ。冬になったらうちの作物を食べた獲物をわしが捕まえたらいいんや」

ワンシーズンに捕える獲物は、鹿50匹、猪30匹、熊が1,2頭程度だという。
獣害対策の一助としてカレーショップチェーンのCOCO一番長浜店が限定メニューとして提供している鹿肉カレーの鹿肉は、山肉亭から仕入れたものだ。

 

少し前のことになるが、3月に鹿肉解体体験のイベントが開催された。湖北地域の猟師でつくるNPO法人の主催で、会場には狩猟され内蔵を抜かれた鹿がずらりと吊り下げられた。

白川さんは法人メンバーの一人として、解体やブロック肉に切り分ける実演を行った。
来場者のなかには市内の飲食店のシェフらの姿も。ジビエとしての注目が集まっているのだ。
シェフや料理人が解体やブロック切りわけに挑戦するのを、白川さんが丁寧に手ほどきする姿が印象的だった。

【写真】イベントで鹿肉解体を行う白川さん
画像に解体の様子が含まれます。苦手な方はお避けください

【写真を開く_1】
【写真を開く_2】

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「せっかくとった獲物は無駄なく世に送り出して有効に活用してもらいたい。それだけ。料理人からもときどき連絡があるよ。知識や技術の提供も惜しまない、どんどんしていきたい」


春。狩猟期間は終わり、米作りに忙しくなる。白川さんの暮らしは余呉に生きるいのちと共にある。

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■白川ファーム山肉亭
長浜市余呉町中之郷1720
0749-86-3318
夏期も在庫のあるときは熊・猪・鹿肉の販売可能。
部位、値段等あわせて要問い合わせ。

矢島絢子
この記事を書いた人
矢島絢子
学生時代+数年を県外で過ごしUターン。冬の寒さをどうやって乗り切るかが毎年の課題。自転車に乗って肌寒さを感じなくなったときが湖北の本当の春到来だと信じています。そんな自転車の速度で感じるような、長浜の空気を伝えて行きます。