古民家カフェ「の遊び」 オーナーシェフ 桐畑信夫さん
ペラペラと書き綴られたページをめくると、とてもかわいい絵。そして添えられたメッセージが目に止まった。女性の優しい字とその絵から伝わる「幸せいっぱい!!!」の気持ち。そんなメッセージが次も、次のページにも記されている。
ここ、古民家カフェ「の遊び」を訪れた人が、お腹も心も満たし、しばし至福の時間を過ごして想いを書き残してゆく。
そんな一瞬が詰まった一冊だ。
自然と暮らしを感じながら
余呉湖のほとりにある静かな川並集落。山裾のちょっと小高い場所に、の遊びはある。家の前には蔵があり、裏庭の芝生にはタヌキや野ウサギも遊びに来るそう。
大きい窓から太陽の光が注ぐ店内。ふわっと漂うお香の香りと、さりげなく流れる音楽が心地いい。裏庭には芝生の緑が広がり気持ちもホッとする。大人がひとりで来ても、いつまでも静かにゆっくりと寛げる場所をと、『大人のための隠れ家』をコンセプトに、空間が作られている。
あきらめかけた夢をつなぐ
「飲み物だけのつもりが、いろいろ考えるうちにメニューとなり提供するようになったんです」。
そう語るのはオーナーシェフの桐畑信夫(きりはた・のぶお)さん(57歳)。
前身は市役所勤めの公務員。元々、喫茶店やバーでのアルバイト経験があり、料理が好きで調理師免許をもっていた。自宅横の蔵でバーをしたいという夢があったが、改装にかかる費用が予想以上で断念したという。
しかしながら、すぐにまた再び野望に燃えるチャンスが訪れた。そのきっかけは隣町の木之本町にあるブックカフェ住暮楽(すくらむ)で、“ワンデイシェフ”という一日限り店舗を貸し切り、料理を振る舞う試みだった。
地元のものを使うとことや、提供するメニュー作りにも試行錯誤。初めてのことで、仕込んだ材料が大量に余ったりすることもあった。
そこでの経験は、実際に店舗を始めるにあたってのノウハウや食品ロスの問題など、大変勉強になったという。その後、住居として使っていた家を改装しの遊びをオープンさせた。
食と作ることへの想い
この日のランチは、チーズの香りが広がる、『完熟トマトソースのニョッキ』。もちもちっとした弾力あるニョッキに、長時間煮込まれた濃厚なトマトソースが絶品だった。
オープン以来根強い人気なのが『ふわとろオムライス』。ワンデイシェフで提供した一品でもあり、余呉の羽衣伝説をイメージした卵のドレープが見た目にも美しい、とノートにも多く書き残されていた。
素材は地産地消の近江黒鶏(おうみこっけい)や近江米のみずかがみ、自ら湖東・湖西まで出向き、養鶏農家から卵を仕入れるこだわりぶり。
最近はさらに栄養価の高い卵に出会ったそうで、美味しさを求めて改良も怠らない。そんな想いはここを訪れた人々を介してSNSや口コミで広がっていき、今や県内外はもちろん、海外から訪れる人もあるそうだ。
仕入れから料理、接客、清掃に至るまでの何もかもを桐畑さん一人でこなす。
そのため、一日に対応できる数も限られていて、メニューは『本日のランチ』と数種のスイーツ、ドリンクと至ってシンプル。その理由は、どんな時もお客様が寛げる雰囲気を壊さずに、またシェフでもある自分のペースを大事にしながら、集中して仕事ができる環境でありたいから。こうしてこだわった料理は自信の一品で、盛り付けも余白を演出したりと見た目にも表れていた。
隠れメニューは“ディープな余呉おしえます”
桐畑さんは余呉の暮らしを愛して止まない。自らも自然観察員の資格を持ち、余呉湖や山や野を歩きその様子をSNSでも魅せてくれる。一人でも多くの人に余呉の良さを伝えたい想いで、写真を通して普段の暮らしや風景の情報発信を続けている。
「自然があり子どもや住人が楽しく生活しやすい場所であってほしい。今後は穏やかに自分の余生を楽しみたい」と語ってくれた。
今後の夢は、蔵に趣味であるとんぼ玉の体験工房を作ること。カフェの二階も、手を加えて楽しい空間にもしてみたい。
里の遊び、野の遊び、山の遊びなどの遊びから『の遊び』という名をつけたこのカフェは、これからも四季折々の風景とともに、いろんな楽しみを味わせてくれそうだ。
の遊び
滋賀県長浜市余呉町川並364
0749-86-2494
営業時間10:00~16:00(L.O.15:30)
定休日 月・木・金(加えて不定休あり)
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