「これはねえ、かなり良いですよ!」
中山恵梨子さんから聞いていた通り、なるほど、たしかに良い。緑茶のときより、まるみとふくらみがある。
「これ」というのは、長浜市産の茶葉からつくった、紅茶と烏龍茶のこと。
茶葉の入ったティーポットに熱湯を注いで、それぞれ2分と1分半置いてカップに注ぐ。紅茶はあっさりして、烏龍茶はさわやか。味わいを言葉でうまく説明できないのがもどかしいが、どちらも渋みやえぐみが少なく、いくらでも飲めそうだ。
2年前地域おこし協力隊として着任した中山さんの、隊員ミッションのひとつが、長浜産のお茶の活用。よく知られていることだが、緑茶も紅茶も烏龍茶も、すべてツバキ科の常緑樹「チャ」の葉から作られる。異なるのは加工方法。葉を摘み取って酸化させないようすぐに加熱したのが緑茶、完全に発酵(酸化発酵)させるのが紅茶、その中間、半発酵と言われるのがウーロン茶だ。
「長浜はお茶の産地でもないのに、チャの木があるの?」と思われそうだが、農村地帯ではかつてお茶は自家栽培するのがふつうだった。畑に植え、摘んだ葉を蒸し、揉み、乾燥させて自宅で飲んだ。農産物として農協への出荷・加工場もあったくらいだから、それなりの量が栽培されていた。ただ、時代は移り変わり、茶葉は買うものになり、さらに自ら淹れるのではなく、ペットボトルをあおるものになった。
チャの木は放置され、ただの景観となった。とはいっても栽培が絶滅したわけではない。自家用として畑の脇に植え細々と育てている人もいる。中山さんは、余呉町菅並や木之本町古橋など市北部の何ヶ所かで、まだ栽培を続ける人と交流したり、自治会に協力を仰いで放置された木々の整備をしたりしてきた。
一帯で作られてきたのは在来種だ。だから緑茶にしてみると、野趣あふれる感じで洗練された感じはない。
では発酵させてみたらーー?古橋の集落の人が個人の畑で栽培していたのを一緒に摘ませてもらって、静岡の製茶工場に送った。これが想像していた以上に「良い」という訳なのだ。
「在来種の緑茶ならではの雑味と感じられる部分が、発酵の過程を経ることで良い風に転んでくれたんでしょうか」。そんな風に中山さんは推測する。
古橋には己高山(こだかみやま)といわれる地域のシンボルとしての山がある。
古くは山岳仏教の修験地として知られてきた。山中には行基が開いたとされる鶏足寺をはじめ寺院跡が点在する。
ここに最澄が中国から持ち帰ったチャの木を植えたのが始まりで、修験僧も飲んでいたという伝説がある。1200年前にも前にルーツがある種を使って、紅茶や烏龍茶を楽しんでいるのかもしれない。その歴史にまつわるストーリーにも香りにも、奥行きが感じられる。
とはいっても、中山さんのミッションの難易度は高い。
生産量があまりに少ないから加工場を新たに作ることも、販路に乗せることも厳しい。解決していかないといけないことは多いが、そんななかで見えたひとつの光でもある。
長浜発の新しいお茶の歴史の第一歩になることを期待したい。
(撮影:川瀬智久 執筆:矢島絢子)
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