この写真の方を見て、
「あ!」と、そのお姿を懐かしく思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
長浜市内の本好き・図書館好きの方ならば、
市内の各図書館にて、そのお姿を一度ならず見かけたことがあるかもしれません。
長浜市立図書館の高月・湖北・浅井各図書館の元館長さんだった明定義人さんは、兵庫県加古川市出身。
長浜市への合併前・旧高月町時代より、高月図書館の館長さんを長く勤められていました。
気さくに来館者の方々へ話しかけられる明定さんと
様々な本のお話を楽しまれた図書館利用常連さんも、多いのではないでしょうか。
けれども滋賀県の高月図書館と明定(元)館長さんといえば、実は日本の図書館業界ではその名を知られた
有名図書館と名物館長さんだったことを知る長浜市民の方は、そんなに多くはないかもしれません。
高月図書館には、実は2つのある特色で日本一・日本初を誇った歴史があります。
ひとつめは、人口あたりの利用者一人の平均貸出冊数が、日本一になったこと。
ふたつめが、日本の公共図書館で初めて、文学以外は大人向けの本と子供向けの本を分けずに、ジャンルごとに同じ棚に並べて置いたことです。
そういえば湖北に引っ越してきて初めて図書館に行ったとき、「あれ、めずらしいな」と思いましたっけ。
すっかり忘れていました。
なぜならこの大人用の文庫や新書・専門書とこども用の「〇〇のひみつ」シリーズや絵本等が一緒に並んでいる棚、一見雑然と見えるかもしれませんが、実際に図書館を(特に親子で)利用していると、あまりにも便利すぎて、しかも楽しすぎるんです。すぐに当たり前感覚となり、ちっとも不思議には思わなくなっていました。
実は長浜市内の図書館以外では、とても珍しいことだったのかもしれませんね。
利用者と図書館職員双方の「楽しい貸出し」が理想だという、明定館長の下。
高月図書館ではこの他にも、学校の先生向けの各種授業用貸出教材を充実させたり、
ティーンズ向けの小説本やコミックスの貸出を充実させるなど、様々な実験的取組みに挑戦、成功させてきました。
我が家も「ガラスの仮面」や「ちはやふる」、「宇宙兄弟」に「きのう何食べた?」や
「とりかえ・ばや」をはじめ、家族で数多くのコミックス本を、
新刊が出る度、並み居るリクエスト予約希望者の列に並んでは図書館から借りて読んでいます。
他県の友人家族にこの話をにすると、いつもとてもうらやましがられます。
また小説「星と祭」を記念した図書館2階の井上靖記念室より、当時文学館や図書館ではめずらしい美術宅配便を利用した井上氏撮影写真等の展示品貸出をしたり、著書「ことばが劈(ひら)かれるとき」や独自の演劇レッスンにワークショップで有名だった演出家・竹内敏晴さんを講師に招いて、ボランティアの群読やよみきかせ等の朗読者レベルアップ講座を開催したりと、図書館の「社会貢献」をテーマとした様々な取組みも、行ってきました。
そんな明定さんは、2013年に長浜市役所を定年退職。同年より私立京都橘大学文学部にて特任教授に就任し、文学部歴史遺産学科にて図書館情報学に関する講座の教鞭を執られています。
そして2017年、請われて長浜市木之本町にある私立江北(こほく)図書館のボランティア館長へと就任しました。
滋賀県最古の歴史を持つ現存図書館である「江北図書館」は、全国的にもめずらしい私立図書館です。
明治から大正時代にかけて創立者である杉野文彌さんが寄贈した、大量の貴重書や数々の蔵書を誇る図書館で、
100年以上の歴史があります。
大正・昭和レトロな洋風建築館内には独特の雰囲気と情緒が残り、JR北陸線木ノ本駅前にあるという好立地も手伝って、知る人ぞ知る名図書館として近年ゆるやかに注目を集めつつもあります。
しかし地域に無料開放された公共図書館でもあるため、慢性的な運営資金難が悩みの種です。
長年、図書館のための選書の世界でもトップクラスの経歴を積み重ね、また
後進の育成にも努めてきた明定さんは、
図書館や本にまつわる様々なドラマを目の当たりにし、多くの人脈をもお持ちです。
この湖北で長年「楽しい貸出」と「社会貢献」を実践してきた名物館長さんは、
この100年図書館を、次はどんな図書館へと導いてくれるのでしょうか。
「動きのある図書館にしたい」
そう語る明定さんは2017年の今年、日本図書館協会より新しい著書も出版されました。
いま、湖北の宝である図書館とひとが、共に新たな一歩を踏み出そうとしています。
次の100年に向けて、どんな<本の世界>を、見せてくれるのか。
そしていち図書館利用者として、どんな<本の世界>を、一緒に紡いでゆけるのか。
湖北ながはまは、これからまた一層、本好きにとってよりわくわくと楽しい町になっていきそうな…
そんな期待が、膨らみます。