長浜市殿町 濱口商店 店主濱口昭一様を訪ねて
2017年8月11日「山の日」の祝日、午後三時に訪問させて頂いた。
今年は例年よりむしむしどんよりしている残暑厳しい折にもかかわらずお話を聞く事ができた。

今回の取材は過去の振り返りが出来るとてもいい機会です
長浜市で鼻緒製造と卸しを家内産業70数年にわたり営まれておられる。履物が無ければ今も地面を裸足でかっ歩しているのではないかと疑問を抱きましたので取材を申し込みました。
濱口さんのお話
30数年前セールスで長浜市内から名古屋に商店として問屋廻り問屋で鼻緒を卸し、その問屋から北海道から北九州へと履物店(履物問屋)に鼻緒を販売していた。
鼻緒と云うのは下駄の部品なので下駄、雪駄として広く活用されている。しかし、それ以前は、「藁草履(わらぞうり)」として江戸中期から藁草履が出回り順次「下駄」に進化した。

販売店からのリクエストに応えるべく、各種鼻緒は自分の子どもです
下駄の産地は静岡、青森【桜の皮張り材での下駄】、福島、群馬、栃木、九州【間伐材のひだ木】、徳島、愛媛、広島、大阪などに下駄屋があり過去から見ても下駄屋は段々減少に向かっている。
約55年前、昭和30年頃には旧長浜市内に120社の問屋があり、その問屋が180~200軒存在していて職人さんに内職仕事を廻していたので、ひとつの町内に15~20軒が内職をやって助けてもらっていた時代背景がある。
鼻緒は伝統工芸だと言われるが長浜の鼻緒の歴史は短く70年で、本来、伝統とは100年超えの歴史ある産業が伝統と考えている。

ビロード生地です。数々のビロード生地見本をもって営業にまわりました
栄華のビロードも減りビロード鼻緒も激減してしまった。終戦後、統制が実施され長浜の地元利便性で、どんどん鼻緒出荷が増えた時代がり、私が6歳の頃、昭和24年に親父が始めたが現在、長浜に1軒となってしまっている。

女性鼻緒。かわいいでしょう
鼻緒の原点はやはり東京で、そこから大阪に伝えられ、長浜には大阪の職人さんが広めていった。
隆盛をはなった鼻緒生産量ピーク時の20分の一まで現在は落ち込んでしまい、長浜はもとより国内各所の鼻緒製造卸しの店主高齢化も顕著に数字として現れている。
長浜に1軒、名古屋1軒、奈良、大阪と僅かなものとなった。日本人口1億2千万人でそのうち100万人、いやそれ以下の70万人が履物と鼻緒セットで何らかの商品を利用しているので鼻緒販売数も知れている。

蛇柄、亀甲柄の販売商品です
Q:濱口さん独自の製法は…
A:本綿に近いポリエステルを使い履きやすさを重視し、鼻緒と云うのは履物とセットで履く人とか周囲の人にはっきりと目に留まる鼻緒なので「人を飾る商品だ」と自負してる「履く人が足への不快感を発しない」などを重きに製造をしております。
Q:鼻緒の柄についてお尋ねしたいのですが…
A:ビロード鼻緒は「日和(ひより)下駄」と言われ、「水糊」を使っていたので雨の日に履くと糊が溶けるので雨の日は履かない時代もありました。現在は水にぬれても乾く生地を鼻緒として使用しています。

前ツボ指通し部折りの工程です
更に鼻緒生地の裏面には不織布の糊貼で「丈夫さ」を保持して、沢山の職人さんに「仕事のやり易さ」を提供しています。「蛇柄」といわれるビニール製の柄の鼻緒も出荷していますよ。
この「鞄」は私が30年前にセールス販売で使っていた「鞄」で栄華の時代のビロード見本が、この様に仕分けしてカタログで説明をして各地をめぐっていました。
今はハイミロン(スエード100%など)の生地で肌ざわりを考え選び、柄物カタログはありませんから関西などの生地屋で洋服生地を探し鼻緒に適するデザインで、着物に合うデザインで仕入れをしています。季節にも夏物のレース地、お祝い事の金糸地、印伝(鹿皮素材面にうるし細工)などをそろえています。デザインも花(桜、菊ほか)トンボ(後ろにはさがらず前進飛行で、いさぎよい命を咲かせる生物)、亀甲などがあり「履く人の遊び心に火が付けばいいじゃない」とか「鼻緒との出逢い」に繋がればというお客様の気持ちに立ち製造をしていってます。

奥の反物生地が物語るように、多彩なデザインを揃えています
Q:鼻緒種類と在庫管理についてどの様にされていますか?
A:鼻緒カタログで発注を受け、そのカタログ内一本の鼻緒を数束毎に管理しています。

徳島阿波踊りで履く、女踊り紅白ねじり鼻緒です
在庫数は270~280種類のデザインを揃えています。それぞれの種類をドカッと抱えておくことで必要な時、即刻お届けしています。その数々の鼻緒は不良在庫と言われるのですが「私の趣味の世界だ」と思っていますよ。
鼻緒柄デザインファイルで種類番管理をおこない、管理場所も頭にはいっていますので、すぐに引き出せて全国に向けて発送できます。と言う事で「鼻緒は自分の子ども」ですね。
長浜の原田履物店で鼻緒すげ替え(芯縄切れの治しや鼻緒交換)もしてもらえます。すげ替えれば履物も見違える様になりますよ。鼻緒で「指がいた―い」と言われる方は下駄屋さんで診断してもらってください。きっと履き心地が良くなりますからね。

前ツボは鼻緒の先端、足の指と指の間に入る部分のこと。
履物の鼻緒が汚れたらお好みのデザインの鼻緒に取り換えて頂けます
Q:実際、僕の母が鼻緒芯引き(鼻緒内に芯縄を綿で巻き挿入)の内職をしていました。
A:当時の内職の職人さんの工賃は安く生計を遣り繰りする時代で、鼻緒製造は「人と云う時間を必要とする」ので毎月1万5千足(3万本)日当たり5百足(千本)を仕上げて大家族を養っていた時代背景がありました。この数をこなすには早朝から夜なべ終わりを繰り返す家庭生活があったのだと理解してもらえれば当時のご苦労も分って頂けますね。
実際この商売に後継者はいません。販売本数が少ない鼻緒では食べてゆけませんので、食べてゆけないから家族には継がせる事はさせません。
後継者を探すと云う事よりも「鼻緒が売れる方向付けが重要なのです」。

長浜伝統産業会館にて
衰退する国内伝統工芸の廃業は、より深刻化し国内空洞化現象で更に難しいので、この危機を是非回避して頂ける国策を確立してもらって各種伝統工芸に一筋の光輝く時代が見られたらいいなあと思っているんですよ。
今日は「想い出と鼻緒集大成」について語る事が出来ました。これからも履物をお求め頂くお客様の気持ちになり鼻緒製造をしてまいります。
取材後記
国内には「仏閣神事」「各地の伝統的お祭り」「時候毎の伝統的踊り」「婚儀」「和装観光」など様々な行事が御座います。
それらの催しには不可欠な「履物」と「鼻緒」です。
「途絶えてしまってはどうなの?」「絶えさせてはならない商品だ!」と言う事が今回の取材で発見でき、冒頭の疑問も解決できました。
これから長浜伝統産業館に足をはこび展示商品の「下駄」「草履」「雪駄」など各種鼻緒と履物を拝見し、気に入った雪駄と鼻緒を購入して参ります。
本日は、お忙しいなか取材にご理解ご協力頂きありがとうございました。勉強できました。
お礼感謝申し上げます。
《長浜伝統産業館 和の仕事》
北川義株式会社
所在地:長浜市大宮町 営業時間:10:00~17:00 火曜日はお休み