• 2014.12.19 長浜の人
  • 住まいと暮らし

「代行」と「時間短縮」を求めない生活実感が湧く暮らし どっぽ村


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松本茂夫さん、清水陽介さんの暮らし

長浜市小谷上山田町の一番奥、美しい田園ときれいに整備された木々が広がる山裾にユニークな名前の“村”がある。ここは、「上山田どっぽ村」。「買う」暮らしから「つくる」暮らしへ・・山里の資源を生かし、自分の暮らしを自分の手でつくる人々が集い、働き、学び、暮らす場だ。

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ここでは、『農業』と『建築』の技術を仕事を通じて身につけ、オリジナルの人生(独歩)のスタートを切れるようにすることを目標とした研修事業が7年間続けられてきた。

この「どっぽ村」構想を創設したのが、「家も建てる農家」の松本茂夫さんと「米も作る大工」の清水陽介さんの2人だ。

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「製材所の仕事というのは、自分が目利きした山の木を切ってこだわりの材をつくるものだったが、今は、輸入材など安く仕入れてきた材木をカットするだけ・・。

これでは達成感もなく、おもしろみもない。そして、何よりも職人の技術力が低下する。

経済優先の合理性ばかりが求められる世の中では、職人たちの仕事も技術も廃れてしまう」と、危機感を募らせる松本さん。

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「今の世の中、『代行』と『時間短縮(時短)』ばかりを追い求める。

例えば家を作るとき、本来なら1年以上かかる家を半年で作ろう(時短)と、住宅メーカーに依頼する(代行)。

自分で行うのはお金を出すことだけ、いや、お金も住宅メーカーが借入の代行までしてくれるので実際自分ですることはない。

手間をかけて自ら作りださなくても何でも手に入り、 それでいて安い。

そんな便利さを求め人々は山里を離れ、 人がいなくなった場所は荒れていき、過疎化をたどる一方だ。

こうした状態は、 社会全体の能力は上がっても個々が生活するうえでの能力は下がっているように感じるし、 社会が大きく変化したときの生活に柔軟に対応できるか不安を覚える」と清水さん。

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2人が不安と思う世の中に対して、どっぽ村では、食料を生産するための技術「農業」と住むところを作るための技術「建築」、

つまり人が生活をするうえでの基本となる技術を習得し、仕事を作りながら、自ら生き抜く力を身につけていくのである。

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清水さんが提唱する住まいは、自分で建てる(セルフビルド)こと以外に「限りなくエネルギーがかからない」ものを建てることだ。

「例えば、今の住宅のサッシは、アルミが多いが、アルミサッシを作るのに木材の1500倍もの電気を使う。また、処分するときも、エネルギーを要する」と言う。実際清水さんの建てる家は、太陽の光、風通し、雨による貯水など、できるだけ自然の力を利用している。

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「家を作ることはそんなに難しくない。ただ手間がかかるだけ。お金を頼りにする感覚をなくせば、『代行』と『時短』を求めず、

楽しんで家を作ることができる。そして苦労して完成した住まいでは、『生活の実感』を感じられる暮らし方ができるんじゃないかな。

別に特別なことではなく、昔は当たり前に行われてきたことなんだけどね」と最後に印象的な言葉を残してくれた。

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 【小障子菜々子さんの暮らし】

小障子家を訪ねると、作業小屋に、緑色に塗られたほぞのある材木が置かれていた。「これは何に使うの?」と聞いたところ、「炭小屋を作るためのものなんです。旦那が素人ながらも自分で作っているんです」と笑顔で答えたのは、奥様の小障子菜々子さん。

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小障子菜々子さんは、松本茂夫さんのご息女で、以前はグラフィックやデザインの仕事を東京でやっていた。

しかし、オフィスのなかでのルーティン的なデザインの仕事に疑問を持ち、地元滋賀で活躍する冨田酒造の冨田泰伸さんなどいろいろな若手の人に刺激を受け、「田舎は田舎であるがこその仕事がある」と改めて感じ、帰郷したという。

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小障子さんの住まいは、どっぽ村内にあり、セルフビルドで家を建てたという。「自分で家を建ててみたいと思いたってここまで完成。でも2階はこれからだし、和室の照明も自分で作りたいけど、なかなか時間がとれず、線がむき出したままです。ぼちぼちやっていきます」と言いながらも、家づくりを楽しんでいる様子。

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どっぽ村内の暮らしについては、「農業、大工、最近は喫茶を行う仲間も増えてきて、村内での仕事も多様化してきました。私の役割は、デザイン力を活かして、それぞれやっている仕事をうまくコーディネートし、そしてその活動を外に伝えることだと思っています。また、村内の人のつながりのなかで、お互い足りない部分を補う意味での『代行』と『時短』はとてもいいことだと思っています」と話し、「結」的な『代行』と『時短』の使い方を紹介してくれた。

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【どっぽ村というくらし】

松本さんや清水さんの言うような、少し前の湖北では当たり前のように循環していた人間や動植物を含んだ暮らしと環境のサイクルを想い、小障子さんのようにそれぞれの暮らしに合った形でそれらに寄り添っていくライフスタイルに憧れ、こういう意識の転換と実行を受け入れてくれる機会がこの湖北にはまだあるということを嬉しく思った。

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【どっぽ村】

連絡先

住所:滋賀県東浅井郡湖北町上山田880

農事組合法人大戸洞舎内

上山田どっぽ村事務局

TEL:0749-78-2164 (農)大戸洞舎/代表・松本茂夫

TEL:090-1908-1915 エコワークス/代表・清水陽介

WEB:http://doppo.jpn.org/index.html

川瀬智久
この記事を書いた人
川瀬智久
身長188cm、市役所入庁以来、背の高さだけはNo.1をキープしています(笑) 「人がまちを動かす」を理念に、広報を通じて、人がつながり、共感を与え、市民活動を喚起、活発化させられるようがんばります!今回の取組みで、観光のような「ハレ着」とは違った「普段着」の長浜の魅力、愉しみ方を紹介し、「長浜いいね!遊んでみたいね!住んでみたいね!」と、行動に移してもらえるようデザインしていきたいですね。