• 2015.6.13

山本山〜賤ヶ岳縦走


 

湖北に住む者ならばきっと誰もが耳にするであろう「賤ヶ岳」

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しかし下から見てどこが賤ヶ岳かと、自信を持って山頂を指差せる人は、意外と少ないかもしれません。

 

そしてまた、湖北に住む者ならばきっと誰もが目にしているであろうこの独特のシルエット。

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「山本山」という、チャーミングなこの山の名を知らない人も、意外と多いかもしれません。

そんな方にはぜひこれを機に覚えていただきたい。

山本山は遠くから眺めているだけではあまりにももったいない、沢山の楽しみにあふれた山なのです。

 

 

縦走ルート

 

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湖北人にはこの景色も馴染み深いことと思います。

湖岸道路を北へ進み、「尾上」のカーブを曲がって「片山」のトンネルへ向かう浜辺に広がる奥琵琶湖の風景。

「塩津」を再奥とする深い入り江の、

東岸を形作るこの山並みが今回おすすめする縦走ルートです。

近くの山ははっきりと、遠くの山はかすかに淡く連なっています。

これからあの辺りに分け入って遊ぶことを思うとワクワクしてきます。

 

地形図で確認してみましょう。

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スタート地点は「山本」の朝日山神社にある登山口。

山本山(324.4m)に登るとおよそ7km北の賤ヶ岳(421.1m)まで細長い尾根が続いています。

さらにそこから余呉湖の東側をぐるっと半周する尾根を緩やかに下ることおよそ4km。

ゴール地点は余呉駅にほど近い「江土」の集落です。

 

西に奥琵琶湖、東に湖北平野の広がりを眺めつつ進むと、やがて前方に現れる余呉湖。

四季を通じて見ごたえのある景色の展開と、

平地にほど近い身近な里山でありながら、多彩な動植物との出会いを楽しめるこのルート。

なかでも田植え後の水をたたえた田園や若葉が輝くこの時期は、

美しい湖北の景色を存分に堪能できる、おすすめのシーズンです。

 

 

いざ出発

 

9:30AM

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朝日山神社にて、美しい集落の安寧と山行の安全を祈願して、いざ出発です!

 

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青紅葉の石段を登り始めてほどなく、

愉快な石像さんたちがお迎えしてくれました。

 

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こんな方や、

 

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こんな方など。

 

ここは地元の方には「山寺の観音さん」と親しまれる「朝日山常楽寺」

境内に並ぶたくさんの笑顔が、山行を愉快に見送ってくれます。

 

 

常楽寺を過ぎて山本山山頂まではややガレ気味の急な登り。

 

 

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途中陽当たりの良いところにはヤマツツジが見られます。

 

滑りやすい足元に注意しつつも、振り返れば、、、

 

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湖と水田が境なく一続きになっていくつもの小さな集落が浮島のように散りばめられています。

私たちの暮らしには水や緑が欠かせないということが、心に直接伝わってくるような風景。

こんなにも美しい風景を守ってきてくれた土地の先人たちへの感謝の気持ちがこみあげてきます。

 

10:10AM

本城・二の丸跡の見晴らしの良い広場に到着。

 

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静かな水面に佇む竹生島が見えました。

このすぐ北側の茂みの中に本丸跡の広場と山頂があります。

 

 

尾根線からの眺め

 

山頂付近では、土塁や空堀などの変化に富んだ地形が見られ、かつての山城を偲ばせます。

 

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こまめに案内板などの解説もあり。

歴史付きや城マニアはじわじわと心をくすぐられることと思いますが、

そうでない方もぜひ、このあたりをじっくり散策してみてください。

特に、小高い土塁の上などはわかりやすいお勧めスポット。

日頃見慣れたはずの風景が、思わずハッとするほど美しく広がっています。

 

湖にせりだしたような尾上の町並み

湖にせり出すように広がる尾上の町並み

 

東阿閉の集落に白く輝く尖塔

東阿閉の集落に白く輝く尖塔

 

この先も賤ヶ岳に至る全ての区間で、左右に開ける風景には要注目です。

人知れず奥琵琶湖の畔に佇む小さな集落や、

遠くに重なる高い山影や、

ただただ青く静かな湖面の様子などなど、ついつい足を止めるスポットが連発します。

 

そしてこの時期おすすめの景色がもうひとつ。

 

新緑の広葉樹林

新緑の広葉樹林

琵琶湖側の斜面にまだ若いコナラやクヌギの立ち並ぶ明るい森はかなり見応えがあります。

残念ながらこの日は遭遇しませんでしたが、

運が良ければリスや鹿に出会えることもあります。

 

そして一瞬ヒヤッとするこんなものも。

クマの爪痕。

クマの爪痕

そこかしこにけっこうあります。

うっかり出会わない備えとして、クマ鈴やラジオを忘れずに携行しましょう。

 

 

山を行く道とは

 

11:05AM

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「熊野越え」と呼ばれる分岐点に到着。

 

こんな案内板があります。

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こちらはマップ。

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念のために確認しておくと「片山」と「熊野」そして「古保利小学校」の位置関係はこんな感じです。

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片山は旧高月町の中では唯一この尾根線の西側にある集落で、今の小学生たちは片山トンネルを通って通学しているとのことですが、当時(ほんの二世代前です)のこの道はどんな雰囲気だったのでしょうか。

 

話が少し逸れますが実はこの片山、集落の区域はこのあたりだけではなく、入り江を挟んで対岸「つづら尾崎」の半島東側に、広範囲の山林を飛び地で領有されています。

地元の方に聞けば、片山は漁業や林業で生計を立てた方が多く、少し前までは船で対岸へ渡っては山の仕事をされた方も多くいらっしゃるとのこと。

つまり湖や山までが生活空間の中に含まれていて、もちろん子供たちにとって峠越えの通学はたやすいことではありませんでしたが、誰も居ないひっそりとした山道を通ったというよりは、地元の大人たちも山仕事がてらに目が届くところを「楽しく遊びながら通った」とのことです。

 

身近な里山にさえ入る機会の少なくなった私たちにとって、獣柵を開けて入るような山道は少々の緊張感も伴う非日常の領域となりがちですが、少し前までは近所の路地を歩くような感覚に近かったのかもしれません。

そしてそれだけではなく、暮らしに欠かせないさまざまな食料や材料を手に入れることができる山道は、単なる移動路という意味合いを越えて、山に通うこと自体が目的になるほど、道中には大小いろいろな目的が見出されていたことがおぼろげに感じられます。

 

この先にもこうした分岐はいくつもあります。

 

木戸港跡への道

木戸港跡への道

阿曽津千軒集落跡への道

阿曽津千軒集落跡への道

 

それから何と言ってもこの一帯は「古保利古墳群」といって、尾根線上に132の古墳が分布する一大集積地です。

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古の土地の方々にとっても、豊穣の大地とともに、交易の手段として琵琶湖を重要視していたことがよくわかります。

 

今はひっそりとしたこの道に、かつてどのような人たちが行き来したのか、想像力がかきたてられます。

 

 

ランチタイム&ティータイム

 

1:00PM

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「赤尾」のちょうど真上あたり。大きな桜の木の下の、よく手入れされた見晴らしの良い広場に到着し、

お待ちかねのランチタイム。

 

メニューはホットサンドとオニオンスープにコーヒです。

 

 

ガラガラとコーヒー豆を挽くと、味わい深い香りが漂ってきます。

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山中でも妥協を許さない本格ドリップコーヒー。

 

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程よい倒木の枝をカットして、、

 

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即席のコースターができました。

 

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こちらはホットサンド用の目玉焼き。

さっと焼けたらこれにハム、チーズ、きゅうりを加えて焼き上げます。

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持ち寄った食材や道具を披露しながら、楽しいランチタイムを過ごしました。

 

 

2:45PM

山梨子へと続く最後の分岐。

 

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遠くに「月出」の集落を眺めた後、

ここから賤ヶ岳の山頂へ最後の登りが始まります。

 

3:30PM

賤ヶ岳(421.1m)に到着。

 

 

辿ってきた道のり 032

 

西には奥琵琶湖と竹生島

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前方に広がる余呉湖

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道中のんびりと景色を楽しんでいたとはいえ、

予定よりも時間が掛かり言葉数も少なくなっていた一行。

爽快な景色を眺めながらもう一度茶を点てることに。

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締めの風景に癒される

 

4:00PM

残るは約4km先の江土に向かって緩やかに下るのみ。

 

 

一転して針葉樹の森。

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よく手入れされています。

 

何十年もかけて育て上げられた立派な丸太。

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いい香りがしました。

 

最後は再び明るい広葉樹の森を抜け

 

5:00PM

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とうとう「江土」に到着。

鐘つき堂の石段を下りて集落に降り立ちました。

 

 

迎えてくれたのは余呉湖畔の夕景

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このあたりも田植えが終わったばかりというところ。

 

水田に映りこむ山影

夕方の朱い陽に照らされる若葉

 

最後は心地よい旅の疲れを感じながら、さわやかな風に癒されました。

 

 


 

今回ご紹介した山本山〜賤ヶ岳の縦走ルートはこれにて完歩。

緩やかな尾根線を進むにつれて、西には青い琵琶湖、東には緑の湖北平野と、次々に展開する美しい風景は見応え十分でした。

 

春は芽吹きから新緑への変化、緑と青のコントラストが眩しい盛夏、明るい広葉樹の森が色づく秋、そして冬は落葉とともに景色がさらに広がり、スノートレッキングも楽しめるおすすめルートです。

ぜひみなさんもお出掛けください。

 

 

(執筆:竹村光雄)

竹村光雄
この記事を書いた人
竹村光雄
きれいな水と動植物にめぐまれた湖北の環境、町並みや集落の風景、そこに垣間見える生活に心を惹かれて移り住む。湖北には自分たちがぼんやりと「こうありたい」と願う未来の暮らし方や、そこにつながっていくヒントが沢山ありそう!それを見つけたい!そんな想いを抱きつつ、日夜地図を眺めては歩いて回って、見聞きしたり発見したりを楽しみながら、湖北の暮らしを楽しむ達人目指して目下修練中。