• 2015.7.9 長浜の風景
  • 技と暮らし

今年も始まった「大音の糸とり」


賤ヶ岳の麓、木之本町大音集落の一角、梅雨のこの時期になると「コトコト」と座繰機(ざぐりき)の動く音が聞こえてきます。

「おっ、今年も糸とりをやっているな。」とほっとした気持ちで工房へ顔を覗かせます。窓のいちばん近くの特等席には、いつもの主「佃三恵子」さんがいつもどおり作業を行っていて、さらにほっとした気持ちになりました。というのも、大音にはもうこの工房しか残っていないからです。 IMG_7143-1

この地域は、賤ヶ岳の麓から湧き出る清浄な水にも恵まれ、平安時代の頃から養蚕業や製糸業が盛んであったとされ、昭和初期には全盛期を迎え、大音集落では7割が和楽器用の生糸を生産していましたが、戦後、化学繊維の普及により衰退し、現在は、明治期から続く4代目の佃三恵子さんの工房が残るだけとなっています。IMG_7177-1

IMG_7163-1

毎年6月、岐阜県美濃加茂市から良質の糸がとれるからという、桑の新芽を食べた春蚕(はるご)が届くと、集落や最近では集落外からも若い女性らを呼び、数人に手順を教えながら、糸とりに精を出しています。熱風で乾燥させた繭を、座繰器を用いて熱湯で煮沸しながら手作業で繭の糸を集める作業(糸とり)を行います。そして、糸とりによって小枠に巻き取った生糸は、大枠に巻き直され、仕上げの工程を経て邦楽器の原糸が完成します。糸とりは、昔から嫌われていた仕事といわれるほど、とても集中力と根気がいる作業なのです。

この原糸は、同じ木之本町の特殊撚糸製造会社「丸三ハシモト」で加工され、琴糸・三味線糸などの弦となります。IMG_7150-1

IMG_7164-1

IMG_7168-1

IMG_7183-2

ただ、近年、美濃加茂市の養蚕も高齢化により飼育者が減少し、繭の数も年々減っていて、事業の継続に危機感を募らせています。このため、「蚕がいなければ自分達で飼育するしかない」と、地域に協力してもらい桑の木を植えました。そして今年蚕の飼育も始め、少し大音産繭がとれるようになったそうです。

佃さんに、「今年から大音で養蚕を始めたのですね。」と尋ねると、「ほうや、どんな繭でもええわけはない。良質な繭をつくらなあかんからな、それには自分で作るのが一番やな。」と、頼もしい答えが返ってきました。IMG_7196-1

消えようとしていた「糸の里」で、かつて行われていた「養蚕から糸までの一貫生産」が始まり、糸とりには若い女性が参加するなど、「里」が静かに再燃し始めています。

執筆 川瀬

大音の糸とり
作業期間 6月上旬~7月下旬
場所 滋賀県長浜市木之本町大音
地図

川瀬智久
この記事を書いた人
川瀬智久
身長188cm、市役所入庁以来、背の高さだけはNo.1をキープしています(笑) 「人がまちを動かす」を理念に、広報を通じて、人がつながり、共感を与え、市民活動を喚起、活発化させられるようがんばります!今回の取組みで、観光のような「ハレ着」とは違った「普段着」の長浜の魅力、愉しみ方を紹介し、「長浜いいね!遊んでみたいね!住んでみたいね!」と、行動に移してもらえるようデザインしていきたいですね。