• 2018.11.1 長浜の人

こだわりの日本酒を求めて「かねなか酒店」


長浜市元浜町、大通寺の北側に店を構える『かねなか酒店』は、昭和7年の創業以来、80年以上にわたって地域の人にお酒を提供しています。
現在は3代目である中川康二さんと弟の史朗さんが中心となってお店を営んでいます。

今回はお店のこだわりや思いなどについて、史朗さんにお話を伺いました。

小さい頃から、両親が営むお店の手伝いをしていた史朗さんですが、大学卒業後は異なる業種の会社へと就職。大量生産されたものを顔の見えない消費者に販売する業務のなかで、「もっとお客さんを大事にしていきたい」という思いが徐々に大きくなっていきました。

お酒に関わる仕事がしたいとの思いを抱いていたこともあり、実家の酒店を康二さんと一緒にお客さん一人一人の顔を見て接客できような店にしていこうと決めたのだそう。
「来店してくださった方にお勧めを紹介して『あのお酒おいしかったよ』と言ってもらえると、戻ってきて良かったなと感じます」と話します。

本当においしいと思うお酒だけを提供したい

かねなか酒店では、地元長浜の『七本鎗』をはじめ、竜王町の『松の司』や高島市の『琵琶の長寿』といった滋賀が誇る地酒や、新潟県の 『久保田』、『八海山』 など厳選した酒蔵のみのお酒を揃えています。

「おいしいものは絶対に売れる。それが10年後に売れるのか20年後か、自分が死ぬまで売れないかわからない。それでも自分が本当においしいと思うものを売ろう」
大手の酒屋や日本酒専門の酒屋などと比べると銘柄の種類としては決して多くはありません。けれどこれが先代であり2人の父である秀雄さんの思いでした。
「父の思いを受け継ぎ、今もなお自分がおいしいと思ったお酒だけを販売し、そんな商品がお客さんの手元に届くことが喜びになっていきます」と話す史朗さん。

利き酒師の資格を持つ史朗さんは、お客さんの好みや理想に沿うようなお酒を勧め、「この店でまた買いたい」と思ってもらえるような店をめざしたいと考えています。

日本酒は、ひとつの銘柄でも、年間数多くの種類が販売されます。七本鎗や松の司に関しては定番でも10数種類、 季節酒や限定酒を 合わせると20種類以上にもなります。これらをフルラインナップで揃えているのが特徴で、手に入りにくい珍しいお酒も購入することが可能。
特に松の司の品揃えは、同様の取扱店では随一と自負。厳選した蔵に特化し、品揃えの幅を広げることで、酒の造り手の思いやこだわりを伝えていきたいと考えています。

 

近年力を入れているのが『ヴィンテージ熟成古酒』。

熟成とは、時間が醸成する味の厚みのこと。ワインやウイスキーなど他のお酒では、あたり前に認められている価値で、熟成に時間をかけたものは「〇〇年もの」と言われ重宝されているのを耳にしたことがあると思います。
同じように日本酒にも、熟成することで特長が生まれます。


かねなか酒店では酒蔵から届いた日本酒を、徹底した品質管理のもと長期熟成させ「熟成古酒」として販売しています。本来日本酒に賞味期限はなく、適正な状態で管理すれば品質が落ちることはありません。
ワインのぶどうと同じように、お米も毎年出来が違うため、「何年もの」といったような楽しみや、思い入れのある年のお酒を選ぶ楽しみがあるのだそう。そんな熟成のおもしろみをお客さんに届けようとしています。

今熟成させているお酒は『松の司』のみ。コクのあるしっかりとした酒質のため、熟成期間を経ても味が崩れずにまろやかな旨みが生まれてくるのだそうです。一方で、淡麗な味わいのお酒は、旨みを楽しむものではないため熟成に向いていないのだとか。
こういったところにかねなか酒店ならではの「日本酒に対しての向き合い方」を感じることができます。
時間も管理コストもかかりますが、多くの人に熟成古酒の魅力を知ってもらいたいと、リーズナブルな価格設定で販売。
お酒に目がない人にはうれしい限りです。

 

お酒本来の味を届けるために


日本酒はデリケート。品質の管理が非常に重要です。特に光(紫外線)と温度が劣化の原因となり、季節や保管場所によっては味が劣化する恐れもあります。管理の仕方によっては、同じ商品であっても酒販店によって違う味わいの品物になっていくことさえあります。
かねなか酒店では、蔵元から出荷され、到着するとすぐ冷蔵庫で管理し、出荷された状態を維持するように努めています。また、店内や倉庫でも紫外線を出さないLED電球を使い、お酒の味をそのままお客さんに届けるように努めています。

日本酒はアルコールもハードルも高い

実は史朗さんは、昔は日本酒があまり好きではなかったそうです。たくさん飲むと悪酔いするというイメージや、一気に飲むような飲み方をしてきたせいだと言います。
しかし酒店を営むようになって、日本酒の味を少しでも理解しようと「味わう」ための飲み方をするようになると、数あるアルコールの中でも日本酒が断トツにおいしいと思うようになったのだとか。
「日本酒は仲の良い人、大切な人と、相手のペースではなく自分のペースで味わえる空間で飲んでほしい。味わっておいしく飲むぶんには悪酔いもしませんよ」と自らの経験を踏まえて飲み方を教えてくれます。

とはいっても世間では圧倒的にビールや酎ハイを飲む人が多く、特に若い世代にとって日本酒はアルコール度数が高いお酒とされ、飲んでもらうハードルがぐっと高まってしまうそうです。こうした層にいかに日本酒のおいしさを伝えていくかが、これからの課題。
日本酒に触れる機会や空間を増やすため、 店主催で”日本酒を楽しむ会”をしたり、酒蔵との共同でイベントなども行っています。日本酒のことを造り手から直接聞き、交流することで、ぐっと日本酒が身近になり楽しみが広がるはず、との思いがあります。

幸いにも近年は地酒ブームの影響からか、観光客が地元のお酒・滋賀のお酒を探しにわざわざ足を運んで来てくれることも多いそう。こうした貴重な機会を大切にしようとウェブサイトでの通信販売も。直接は来店できない遠方の人でもかねなか酒店のお酒が手軽に購入できるように、と力を入れているそうです。
「以前来店されたお客様に、お酒との『出逢い』を大切にしたいと言われたことがあります。人と人も出逢いから生まれるものがあり、一生続くような出逢いもあります。お酒にも同じ『出逢い』が大切で、お酒との出逢いをお手伝いすることがわたしたちの使命と考えるようになりました」

 

酒店としてのこれから

後日、康二さんからもお話を聞くことができました。

「現在うちのラインナップの日本酒は、私が取引を始めた酒蔵さんの商品なので、ぜひ弟にも新規開拓して、これぞと思う酒蔵さんとお付き合いをしていってほしいですね。うちに置いたお酒を飲食店さんが気にいって購入してくれるようになれば、そのお酒は新たなブランドとして成長していってくれるはずです。またこのかねなか酒店が『いいお酒を置いている店』というブランドとして育っていくおもしろさや醍醐味を味わってもらいたい」と史朗さんに対し熱いエール。

「いろんな日本酒を100種類集めようと思えば集められます。ただ、私たちのスタイルは太い柱となるような銘柄を持ち、そこに自分たち思いを凝縮して伝えたいと考えています。お客さんを蝶々に例えるのであれば、蜜を吸いに来る花びらではなく、住み着けるような木をつくっていきたい」と康二さんは力強く話します。

そんな史朗さんにとって今「おいしい!」と惚れ、仕入れたいお酒があるのだそう。ただ生産量が限られいて、簡単には卸してもらえないのだとか。とはいっても業界では取引までに10年かかったという話もよくあるようで、そこが難しくまた楽しいところでもあり、酒蔵と酒販店の関係が生まれたときの喜びはひとしおになるはずです。

量販店が台頭し、消費者の購入形態が変わるなか、「ここでなら買える」お酒が置いてある酒屋さんの存在はうれしく心強いものではないでしょうか。お店に通うことで、「また飲みたい」「明日も飲みたい」と思えるお気に入りを見つける楽しみも生まれます。かねなか酒店はそんなまちの酒屋さんです。

 

行事ごとやギフトなどに美味しいお酒を贈りたいという方にもおすすめ。お二人がいろいろアドバイスしてくれますよ。おいしい焼酎も揃っています。 日本酒はもちろん焼酎との新しい出逢いがきっと見つかるはずです!


かねなか酒店

滋賀県長浜市元浜町33-5
0749-62-0471
営業時間 午前9:00〜午後7:00
定休日 日曜日

HP http://www.kanenaka-sake.com/
地図

山瀬鷹衡
この記事を書いた人
山瀬鷹衡
長浜市西浅井町出身。大学進学を機に大阪に移り、デザインやライティングの仕事を経て2017年7月、長浜市起業型地域おこし協力隊として帰郷。昔から感じていた地元で豊かに暮らす魅力ある「人」に注目した情報発信や体験構築を行う『うるう』を起業し活動中。