北国脇往還で、今も昔の面影を残す伊部宿本陣跡。
かつては諸大名も旅の疲れを休めたというこの場所で、今は豊かな長浜の食文化とその暮らしががいきいきと営まれています。
迎えてくれたのは肥田夫妻。「鮒ずしの味の決め手は麹」と嘉昭さんが言えば、「麹は私の専門分野」と文子さん。鮒ずしのお話を通して麹の魅力も沢山語ってくれました。
今では、湖北町食事文化研究会の代表として湖北の食文化を研究し発信している文子さんですが、鮒ずしを知ったのは結婚後のことだとか。嫁ぎ先の嘉昭さんのお祖父さんは大の鮒ずし好きで「腹薬代わりだ」と言い、お腹の調子の悪い時には率先して鮒ずしを食べていたことが今でも忘れられないと言います。そんな文子さんも、今では息子の嘉文さんと鮒ずしの味を競うように、仕込むたびにデータを取りながらお米の量や混ぜる塩の量をかえ、毎年味の改良を続けているそうです。
肥田夫妻の鮒ずし作りの味の決め手は「米麹」。麹に着目したきっかけは、鯖ずしづくりの教室で出たクレームでした。鮒ずしと同じ「なれ鮨」の仲間である鯖ずしの「いい」が、岩のように硬いと文子さん自身も頭を悩ませていました。そんなときに試してみたのが炊いたお米に米麹を混ぜること。発酵を促進する役目を果たす麹の作用で、いいが柔らかくなるだけでなく、鯖自体ももまろやかで豊かな旨味に仕上がったといいます。それ以来、鮒ずしを漬け込む際にも米麹を入れるように。柔らかさ、まろやかさが違うんだとか。
「脈々と受け継がれてきた滋賀の発酵の食文化。その王様である鮒ずしは一番のご馳走。何百年も絶えず続いてきた伝統的なレシピにはわけがある」と嘉昭さん。長浜の多くの集落で今も続く、五穀豊穣や村内安全などを祈願する「オコナイ」や、お正月のご馳走として必ず出てきた鮒ずしが最近では出ても喜ぶ若い人が少なくなっていると言います。伝統的な食文化や地域の食材が見直されている今だから、興味を持ってくれる若い人や食べたことがない人にはぜひ一度食べて欲しいと鮒ずしへの思いを話してくれました。
□鮒ずし作りのこだわりポイント
・きれいに塩押ししてくれる漁師さんの鮒を使う
・漬け込む際の鮒の処理はざっとする程度
・炊いたお米に米麹を混ぜる【お米:塩:麹=1升:40g:盃一杯】
・つけはじめの2ヶ月は直射日光に当てる
・冬場は深い軒があり、冬の寒い風が吹くところで保存
□鮒ずしのアレンジ
・お茶碗に鮒ずしを3切れと塩昆布、とろろ昆布をお好みでいれ、その上に熱々のご飯をのせます。
上からお湯かお茶をひたひたに注ぎ2分ほど待って食べる。
お湯が少なくなったら足すと味わいが変化します
・いい湖漬け
ぬか漬けに1/10程度のいいを混ぜます。
鮒ずし同様、まろやかでコクの有る味わいに。
執筆:宇留野