• 2019.10.20
  • 歴史と暮らし

「星と祭」の復刊


絶版状態だった長浜を中心とした湖北地方の観音文化のことがよくわかる井上靖さんの小説「星と祭」が地元の人たちの力で10月20日に復刊されました。クラウドファンディングや勧進イベントを行って資金を募るなどした尽力が実った形となりました。

さらに、復刊に合わせて「星と祭」復刊プロジェクト公式ガイドブックも製作。著者はメンバーの一人で長浜市地域おこし協力隊の観音ガールこと「對馬佳菜子」さん。「観音ガールと巡る滋賀近江の十一面観音」として物語に登場する13寺すべてを紹介しています。

前日10月19日にはその復刊セレモニーがありました。
セレモニー当日は、仏像写真家の僧侶「駒澤琛道(たんどう)」さんと長浜市高月観音の里歴史民俗資料館長の「佐々木悦也」さんによる記念講演。

駒澤さんは、湖北の観音さまに魅せられて、長浜を何度も訪れ1988年に写真集「湖北妙音」を発行。当写真集発行にあたり、当時全く面識がなかった井上靖さんに思い切って手紙で序文を依頼。その後なんと電話がかかってきて井上さんの自宅へ招かれ快く引き受けていただきました。その序文が完成し、井上さん宅を訪れたとき、机には駒澤さんの作品が何冊も積んであり、そのとき、「なんて自分はとんでもないことをお願いしたのだろう、序文を書くのがこんなに大変なこととは」と依頼した自分の愚かさに後悔したと言います。

駒澤琛道(たんどう)さん

佐々木悦也さん

また、佐々木さんが集落との交渉役を買っていただいたこと、集落の人が食事を作って持ってきてくれたことなど、湖北を訪れる度に集落のひとの心の温かさに感動したと言います。

特に、「星と祭」で「村の娘さん」と表現されている木之本町石道寺の観音さまに対しては、撮影を幾度となく断られましたが、一番会いたい観音さまを写真集にどうしても収めたくあきらめずにお願いしたら、当時の区長さんから「最後にもう一度だけ村の者と相談して連絡する」と告げられました。そして朝に連絡があり、断られると思っていましたが、区長さんは「相談した結果、満場一致で撮影していただいてもいいことになりました。こちらはそろそろ雪が降る時期です。先生は大切な方ですのでどうぞ暖かくしてお越しください」という旨の言葉をいただいたとき、駒澤さんは「湖北のひとの温かさに涙があふれた」と声を詰まらせて話され、参加者も目頭が熱くなりながら聞き入っていました。

湖北の観音さまは、大きな寺院とかでなくそれぞれの集落のひとがお守りしています。

「星と祭」でも、「湖北の観音さまに奉仕している人に信仰という言葉を使ってもいいのかわからない。信仰でなくても別の信仰と同じ価値があるに違いない」と表現しています。以前集落のひとに「なぜお守りするの?」と聞いて返ってきた言葉が「そこに観音さまがあるから」・・これが湖北の観音さまとお守りしているひととの関係だと納得しています。

星と祭復刊プロジェクト実行委員会の皆さん(同実行委員会所蔵)

『星と祭』特装版(非売品)と公式ガイドブック

星と祭復刊本とガイドブックの入手方法は「星と祭復刊プロジェクト実行委員会」ホームページでご確認ください。
http://hoshitomatsuri-fukkan.com/

川瀬智久
この記事を書いた人
川瀬智久
身長188cm、市役所入庁以来、背の高さだけはNo.1をキープしています(笑) 「人がまちを動かす」を理念に、広報を通じて、人がつながり、共感を与え、市民活動を喚起、活発化させられるようがんばります!今回の取組みで、観光のような「ハレ着」とは違った「普段着」の長浜の魅力、愉しみ方を紹介し、「長浜いいね!遊んでみたいね!住んでみたいね!」と、行動に移してもらえるようデザインしていきたいですね。