• 2020.4.10
  • 長浜くらしノートストア

琵琶湖の恵みを飴色に包み込む、魚友商店のはまだき


賤ヶ岳から南に延びる丘陵の先端、湖北富士とも呼ばれる山本山の麓で、朝早くから漂うどこか懐かしい甘辛い炊きものの香り。湖魚加工品を営む魚友商店で炊かれているのは、滋賀県民にとっては身近な存在である琵琶湖の魚や海老たちです。醤油、ざらめに水飴といったシンプルな味付けで湖魚本来の素材の風味を包み込む。魚友商店の「はまだき」は琵琶湖の恵みそのものです。

創業者であり80代となった今でも現役で漁を続ける片山藤夫さんや琵琶湖の漁師から届けられる湖魚は、二代目である片山友明さんの手によって加工されていきます。大学卒業後すぐに家業を継ぎ、以降約30年間炊きものは友明さんの独壇場です。そんな夫の仕事を支えているのが妻の直美さん。刻一刻と状況が変わる作業場の中、必要なタイミングでサポートをするさまは、まさに阿吽の呼吸です。

主な加工品は鮒ずしに代表される「なれずし」とえび豆や小鮎などの「炊いたん」。炊いたんとは飴炊きや甘露煮のことですが、魚友商店では「はまだき」と呼んでいます。

もちろん名前が違うだけではなく、魚友商店としての矜持がそこにはあります。「湖魚は淡白だけど、淡水魚らしい独特の味わいがあります。だからそれぞれの素材が持つ本来の味わいを提供したいんです」と友明さん。魚の種類によって炊き方はすべて違うそうですが、友明さんが大事にしているのが魚の鮮度と、30年の経験を頼りにした水と火の加減です。素材が本来持っている旨味や食感、そして色味を引き出すこと。そして、時間が経ってもふっくらとした食感を保ち美味しく食べられること、それが魚友商店の「はまだき」です。

品目は時期によって様々ですが、小鮎やいさざ、テナガエビにモロコなど15種類ほど。その中で毎日4,5種類をローテーションで炊いていきます。

調味料はざらめ、たまり、濃口醤油と水飴が基本。それに加え、炊きものの残り汁を使いながら作る注ぎ足しのタレ。調味料を加える順番など工程は炊きものの種類によって異なりますが、最初は魚の形を崩さないよう気をつけながら強火で一気にアクを取り除いていきます。

その後は火を緩め、柔らかく仕上がるよう調整します。作業場に並ぶ5つの大鍋のうち、4つは常に火がかかっている中、流れるような手つきで一つ一つ作業をこなす様子はまさに職人。「毎日が勉強です」と謙虚な友明さんの、仕上がりに対する試行錯誤はこれからも続きます。

琵琶湖が身近な滋賀や長浜の方でも、特に若い人など湖魚を食べる機会が少なくなってきている湖魚。そうした状況でも「郷土料理だからといって食べるのではなくて、食べたいと思ったときに食べてほしい」とあくまで謙虚な友明さんです。

その一方で「食卓の中心にはならないけれど、ご飯のお供にないと寂しい。季節に応じて魚の種類を変えながら毎日の食卓に上がる」そんな存在になれたらと、嬉しそうに話してくれました。


【本モロコ、えび豆、鮒ずしなど】

魚友商店
〒529-0363 滋賀県長浜市湖北東尾上町52
Tel :0749-79-0273
【営業時間】
8:00~日没頃
定休日:日曜
宇留野元徳
この記事を書いた人
宇留野元徳
生活の拠点をもって、その暮らしを包括する地域のために活動する人々に憧れ長浜へ移住。自分はその中でどういった生活を営みたいか試行錯誤中。生活を彩る道具としてのモノのあり方に興味があり、生活道具のお店を経営する。また、その傍らデザインの仕事をしながら生計を立てている。