• 2018.1.11
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ドキュメント「命がけの狩猟」


※狩猟後の野生動物の写真や映像を掲載していますのであらかじめご了承ください。

1月初旬、長浜市最北部余呉の冬にしてはとてもよい天気になった。

余呉町の白川芳雄さんほか3人の猟師の狩猟に同行させてもらった。

「ジビエをよく知るにはまずは狩猟の現場を体感すべき」との思いから白川さんに前々から頼んでいたことで、好奇心のみで挑んだといってもいい。それがあとで大変な思いをする羽目になるとは思ってもみなかった。

狩猟は、獲物を追う方と仕留める方二手に分かれ、自分は仕留める方につき、余呉町内の山の麓で準備をして登り始めた、はよいものの、人が通る道がない……。獣道に沿って急斜面、沢を登って行く。当たり前のことだが登り用のロープも用意されていない。

道なき急斜面を登る様子

死んで他の野生獣に食べられたのか骨となったシカ

「山をなめたらあかんぞ。自分の命は自分で守るしかない。無理だと思ったら遠回りしてでも行けそうな道を探して行け」と道中猟師には強く言われていたので最大限注意を払う。斜面に生えている木を命綱のように握ってよじ登っていのだが、丈夫な若い幹や枝をつかまないといけない。枯れ木をつかむのは滑落しにいくようなものだ。

慣れない急斜面で膝が笑う。精神的にも肉体的にも限界にきたときに、ようやく目的地に辿り着いた。

実は、今回の記事で自分が撮影した写真はほとんどない。

登るのに必死で道中はほとんどカメラを構える余裕はなく、休憩後ようやく撮影にかかろうとしたが、電源が起動しない。登ってくるときにカメラがどこかに当たりバッテリーを落としてしまうというアクシデントに見舞われたのだ。落胆する暇さえなく、スマホでの撮影に切り替えた。

「これから、ふた山向こうから他の猟師が獲物を追ってくるで、ここに来るまで待つ。けっこう時間がかかるかもしれんぞ」と声がかかる。
さっきまでの大汗がどんどん冷たくなって身体が冷えていく。今度は待ちの試練だ。
猟師がたばこの煙で風向きを確認している。「今日は向こうからこちらに風が吹いとるから、人間の臭いが獲物には届かず気づかれない」。

獲物が来るのを待つ

待ちの態勢から20分ほど過ぎたところシカが山から谷へ向けて逃げてきた。こんなに短時間なのは幸運な方だという。我々とシカの距離は30mほどだろうか。猟師はすぐに銃を構え、狙いを定めて放った。山中に銃声が鳴り響いた。

みごと命中したが、シカも最後の命を振り絞り、懸命に逃げようとする。近距離からもう一発を放って仕留めた。猟銃の発射も、獲物への命中も、一連の動きすべてが見るのも聞くのも初めてで心臓のドキドキがおさまらない。こんな自分のそばの猟師は何事もなかったように銃に玉を込め直し、次の獲物を待っている。

いかなるときでも冷静なのは、猟師として必須の資質であることには間違いない。

次にやってきたのは、イノシシ。30mほど向こうにいるのを今度は一発で仕留めた。スコープ付銃の場合だと200m先の獲物も仕留めるそうで、これくらいの距離なら朝飯前のようだ。

「これで今回は終了」と猟師。

「えっ!まだ獲物は来そうですが」と素人なりの意見を伝えると「獲物は駆除の対象になるけど、その辺には捨てへんぞ。食べるためにすべて持ち帰るけど、そんなにたくさんの獲物を麓まで持ち帰れんやろ」と教えられる。

獲ることだけに夢中になっていた……。確かに、あれだけ苦労して登った道を今度は獲物とともに戻られねばならない。

猟師の仕事は早い。すみやかにイノシシの口の部分と足をロープで固定し、僕は足側を持つ役を担った。木の根などの障害物があれば持ち上げては下ろしていく。40kgほどのメスだが、運ぶとなると不慣れなこともあってもっと重く感じる。

下り斜面で獲物が落ちそうになったときは僕も一緒に持って行かれそうになった。なんとかこらえたものの、一歩間違えれば一緒に谷底に落ちていたはずだ。

運び役はほんのわずかだけで終了してしまった。自分がまったく役に立っていないことをこれほど痛感したことはない。さらに滝や砂防ダムがあるルートが続いたが猟師は獲物を持って平然と降りていく。とても真似できない。

砂防ダムから獲物を下ろす様子

ようやく山の麓に辿り着いたときに口に出たのは「助かった」いう言葉だった。狩猟は命がけで行われている、それに気づくのが遅すぎた。
こちらがほぼ放心状態の一方で、猟師は「早くせんと肉がまずくなるからな」と持ち帰った獲物は白川ファーム山肉亭に持ち込み、すぐに内臓の取り出しや解体にとりかかっていた。

「これだけ苦労して山を登り、獲物を下ろし、そして解体も大変。それでも狩猟を続けるのはなぜなのですか? 駆除の使命感でしょうか?」。
一日行動を共にして、率直に感じたことを尋ねた。

「使命感なんてない。わしらは山のいのちをおいしくいただくために好きでやっとる。そのために解体もほんまに丁寧にやる。一番おいしい肉にしてやらんと獲物に申し訳たたんやろ」と答えてくれたのは白川さんだ。
白川さんらがイノシシの皮を剥ぐときにそれがよく伝わってきた。少しずつ本当に少しずつ丁寧に剥いでいく。肉に傷がつかないよう、おいしい食肉となるよう細心の注意を払っている。

そのとき、肉を買いにお客さんがやってきた。白川さんとお客さんの会話のやりとりのなかで「おまんはええな。こんなただで獲れる肉を売って儲けられるなんて」。その会話を聞いて思わず反論してしまった。「いえいえ、このお肉は猟師が命がけでとってきたものです。今自分が身をもって体験してきましたから」と。

同行してわかったこと。

ジビエは、山のいのちだけでなく、猟師のいのちも込められた肉だ。

白川ファーム山肉亭
長浜市余呉町中之郷1720
0749-86-3318

川瀬智久
この記事を書いた人
川瀬智久
身長188cm、市役所入庁以来、背の高さだけはNo.1をキープしています(笑) 「人がまちを動かす」を理念に、広報を通じて、人がつながり、共感を与え、市民活動を喚起、活発化させられるようがんばります!今回の取組みで、観光のような「ハレ着」とは違った「普段着」の長浜の魅力、愉しみ方を紹介し、「長浜いいね!遊んでみたいね!住んでみたいね!」と、行動に移してもらえるようデザインしていきたいですね。